日本を代表する色絵陶磁器”九谷焼”の産地
九谷焼は、現在は主に石川県南部の金沢市、加賀市、小松市、能美市で生産されている陶磁器です。江戸時代中期頃に始まったと言われています。加賀藩の庇護のもと繁栄するかと思いきや、廃れたり再興したりと紆余曲折の歴史を辿り、注目を浴びたのは明治6年のウィーン万博がきっかけ。「ジャパンクタニ」の名で世界を魅了し日本工藝の技術の高さをアピールしました。
古くから「九谷五彩」という、緑・黄・紫・紺青・赤の鮮やかな5色を使った上絵付けが持ち味です。現在においては、伝統的な技法をもとに様々な作家が独自の個性を発揮した作品を多く手掛け、日常使いから贈答まで、全国で幅広く愛用されています。
▼徳永さんの工房へ向かう道中の車窓から。北陸らしい景色が広がります。

手に触れるものだから手で作っているものを残したい
いよいよ徳永さんにお話を伺います。まずは、作品作りでご自身が大切にしている信念やコンセプトをお伺いしました。
「生活の中で使う物の大多数が工業製品になっていくなか、手に触れるもの、口に触れるものである食器は手で作っているものを残したい。」
と想いを語ってくださいました。
おっしゃる通り、画一的ではない形状や筆致は、手仕事から生まれる器ならではのもの。画一的でないからこそ「この器は世界にひとつ」という愛着が生まれてきます。
工房を見せていただくと、その手仕事の工程の多さや緻密さに、本当に驚かされます。
▼九谷ならではの色を出すのに欠かせない和絵具

インスピレーションは、器のデザインにしやすい身近な植物から得ることが多いそうです。また、家紋、小紋、世界中の民族の文様などからもアイディアの源だそう。様々なモチーフを崩して図案化し、絵付けする文様として完成させるそうです。
▼製作中の「色絵彩梢ならべ」シリーズ。こちらも身近な植物がモチーフになっていますね。

器の裏や底面に絵付けがあるのは「洗い物をする人への贈りもの」
「盛り付けてちょうど良い、描き込みすぎない、例えば、その人の季節の得意料理がふたつ、みっつ思い浮かぶような"器"を作りたい」という気持ちを持ち、普段の暮らしに使える道具作りを心がけている、とおっしゃる徳永さん。器を持った時にどう見えるか、ということも意識した器作りをされているそうです。
徳永さんの作品には、器の裏や底面にも絵付けが施されているものが多くあるのですが、食卓では見えないのに・・・と思ってしまいがち。
これは「洗い物をする人への贈りもの」なんだそうです。確かに、洗い物をする時は必ず裏や底面に目が入ります。また、カップ類の内側に描かれた絵付けは「飲み物を飲む人が眺めながら飲めるように」との想いが込められています。
そんな作り手の想いを知ると、ますます器に愛着がわいてきます。料理を載せる時だけでなく、器にまつわる全ての行動を考えながら作られた道具なのだ、ということをかみしめられますね。
▼器の裏の絵付け

▼カップや鉢の内側の絵付け

長い時間を経ても残ってきたものはやっぱり使いやすい
徳永さんが考える使いやすい器や道具とは?とお尋ねしてみました。
「使い勝手が良いという感覚は人によると思うのですが、自分が作る作品は奇をてらうことはしないようにしています。日本人の平均身長が昔より高くなったと言っても、手のひらが急に大きくなるわけではないですしね。
昔から、日本人の手のひらや食卓に馴染むサイズや形状があるのだと思っています。極端な話だけど、縄文時代以前は葉っぱや石がお皿だったはず。そこから長い時間を経て進化して、ひとつの形として残ってきたものをどこか継承しているのが使いやすい器なんじゃないかと思います。食器棚の中に、なぜか使用頻度の高い器って、どうしてもあるでしょ?」
言われてみれば、そんなに気に入っているわけでもないのに、ついつい使っている器に心当たりが・・・。自分では気づいていないけれど、どこかに使い勝手の良さがあって手放せない、そんな暮らしに馴染んだ器を目指されていることがよく伝わります。
▼手に馴染むサイズ感

九谷青窯での経験は全てが学び
前述の九谷青窯に17年在籍されていた徳永さん。
「九谷青窯時代は全てが学びでした。他の窯元では”手に職をつける””職工になる”というイメージを持っていましたが、九谷青窯はそうじゃなかった。他社は師弟関係などで師匠がお手本とする物とまったく同じものを作る技術を身につけるイメージだけど、九谷青窯は入社するといきなり自分で考えた器を作らされるのです。
入社から半年ほどは、ひたすら何百ピースも器を作ってはバイヤーに見てもらう、ということをしていました。最初のうちは採用されたとしてもたった数点。ダメ出しされながら次の器をつくる、ということを繰り返して成長していく感じです。」
買ってくださる方も作家を育てている感覚があるようで、なかにはお米を送ってきてくださる方もいらっしゃったとか!作家さんを育てる感覚は、九谷青窯ファンの方にはお心当たりがあるかもしれませんね。
九谷青窯ならではの独特の育成方法で経験を培ってこられ「自分が作りたいものや好み、育ってきた環境や価値観から離れることも大事でした」とおっしゃいます。様々な指導を受け、経験を積みながらわかってきたことは「長い長い文化と歴史の中で数多くの人々の審美眼のふるいにかけられ、それでも残ってきたカタチの意味」だとか。
温かなコーヒーが冷める前に飲み切ることができるサイズのマグカップなど、使う人の暮らしに寄り添った器づくりに生かされています。
▼作り手さん自ら淹れてくださったコーヒーを、作り手さんが作った器で味わう贅沢。冷める前に飲み切ることができるサイズのコーヒーカップですね。

ダブルデイでは、今後も徳永遊心さんの器が入荷予定です。人気作家さんなので入荷が不定期になりますが、少しずつ集めていく楽しみを味える器として、気長に待っていてくださいね。